京都の寺院と美しい紅葉
Japan 読了 8 min

古都の静寂、
禅の気配を辿って

静寂の境内

早朝の京都に足を踏み入れた瞬間、都会の喧騒が遠い過去の出来事のように思えた。重い山門をくぐると、ひんやりとした空気が肌を刺す。苔むした石畳の先には、幾重にも連なる歴史の面影がある。誰もいない境内。聞こえるのは、自分の足音と、遠くから聞こえる鳥のさえずりだけだ。

フィルムカメラのシャッターを切る。露出計が示す適正値よりも、ほんの少しだけアンダーに振る。この光と影のコントラストこそが、日本の禅の精神を写し出すような気がした。現像するまで見ることのできない、一期一会の色合い。

竹林の吐息

京都の竹林
朝の光が竹の間から差し込み、緑色の霧が立ち込める嵐山の竹林。

午前7時、嵐山の竹林はまだ深い眠りについていた。風が吹くたびに、無数の竹が擦れ合い、かすかな音を立てる。その音はまるで、山そのものが呼吸しているかのようだった。

フィルムを巻き上げる。36枚という制限は、ここでも僕に丁寧な選択を強いる。この一枚が、この光を本当に捉えているか。ファインダーから見える世界と、自分自身の鼓動が重なる瞬間。

「自然という書物は、言葉ではなく沈黙によって綴られている。」

― ある禅僧の言葉より

一服の茶

茶室に入ると、そこには完璧な調和があった。茶筅が立てるリズム、湯の沸く音。それは極限まで削ぎ落とされた、贅沢な時間だった。

茶碗に注がれた抹茶
丁寧に点てられた抹茶。深い緑が、器の素朴さを引き立てる。

隣の席で、静かに茶を嗜む老婦人がいた。彼女が茶碗を持つ所作には、迷いがなかった。言葉を交わす必要などない。同じ空間に身を置き、同じお茶をいただくというだけで、私たちは緩やかに繋がっている。

夕暮れの鳥居

最後は伏見の鳥居へと向かった。オレンジ色の夕陽が、幾千もの朱色の鳥居を透過し、幻想的な光の道を作っていた。影が長く伸び、一日が終わる準備を始めている。

夕暮れの伏見稲荷大社
夕暮れ時、朱色の鳥居が光に溶けていく。一日の終わりを告げる光の儀式。

カメラを鞄にしまう。この街には、何度訪れても飽きることがない。古いものが、新しいものとして呼吸し続ける街。京都は、そんな不思議な場所だった。石畳をゆっくりと歩き、宿へ帰る道を探す。

Route Map

寺院の境内 → 嵐山の竹林 → 茶室 → 伏見稲荷大社

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Written by

Haruki Nomura

東京を拠点に活動するフォトグラファー・ライター。フィルムカメラを片手に、日本の四季と古都を巡る。著書に『遠回りの地図帳』(2024年)。